低流量で十分?「1日に除去できる活性酸素量には限界がある」という誤情報を科学的に完全解説

近年、水素吸入に関する情報が急速に増える中で、一部のメーカーが次のような表現でプロモーションを行っていることが確認されています。

人が1日に除去できる活性酸素には上限があるから、高流量機器は意味がない。低流量で十分

高流量の機器は単に爆発リスクがあるから、家庭で使用するのは低流量が最適

結論からいえば、これらの主張には生理学的にも工学的にもまったく根拠がありません。

本記事では、「低流量でも十分に効果がある」という誤解を整理し、水素吸入の原理を科学的な観点からわかりやすく解説します。また、なぜこのような説明が世の中で広がってしまうのか、その背景についても説明します。

まず前提としてお伝えしたいのは、低流量機器そのものを否定する意図はまったくありません。ただし事実として、機器の流量・性能によって体感や期待できる変化には大きな差が生まれるため、「どのような目的で水素吸入を行いたいのか」によって、適切なスペックを選ぶ必要があります。本記事では、その“選び方の基準”を明確にすることを目的としています。


活性酸素に“1日の除去上限”という概念は存在しない



活性酸素(ROS)は、以下のような日常的な生体プロセスによって絶え間なく生成・消去され続けています。


・ミトコンドリアの呼吸
・運動やストレス
・炎症、免疫反応
・温度、光、化学刺激など外部要因


つまり、活性酸素は「1日の総量」ではなく、“ 常に生成と消去が繰り返される動的な分子群 ”なのです。

したがって、「人が1日に除去できる悪玉活性酸素には上限がある」という説明は、1日の“総量”を固定的に捉えており、生体内の動的な平衡を無視しているという点で、生理学・分子生物学の基礎と矛盾しています。そもそも、教科書レベルでも「1日あたりの除去上限」という概念は存在しません。この前提が誤っているため、それを根拠にした「だから低流量で十分」という結論も成り立たないのです。


水素吸入の本質は「濃度 × 流量 × 時間」=体内に入った量




水素が •OH や ONOO⁻ などの毒性の高い活性酸素と反応するには、血中の水素濃度を十分に上げることが不可欠です。

しかし、低流量(数十〜数百 mL/分)の機器では、

・人の呼吸換気量(約 10〜20 L/分)に対して絶対量が圧倒的に不足
・空気と混ざり濃度が大幅に希釈される
・肺胞での拡散量が足りず、血中濃度がほとんど上昇しない

という生理学的限界があります。

事実として、世界の臨床研究で採用されているのは高流量(3000mL/分以上)のみであり、これは単純に、ある程度の流量がなければ、血中濃度の変化が測定できないという科学的必然に基づいています。


なぜ「低流量で十分」という誤情報が生まれるのか?



では、なぜ一部メーカーからこのような説明が出てきてしまうのでしょうか。
誤った説明が広がる背景には、次のような構造的要因があります。

(1) 高流量機器を作るには高度な技術と莫大なコストが必要
高流量かつ安全な水素(酸素)発生器を設計・製造するには、大型かつ高耐久な電解槽、冷却・圧力制御・ガス分離などの複雑な制御系、医療・工業レベルの安全規格、長時間運転を前提とした耐久試験・安全試験が必要で、開発・製造コストは非常に高額になります。

一方、低流量の簡易機であれば、構造をシンプルにしてコストを下げることができます。

その結果、「高流量の必要性を認めてしまうと、自社の商品企画そのものが成り立たない」という事情から、「低流量で十分」という理屈づけが必要になるという“ビジネス上の事情”が生まれます。

(2) 科学的なデータよりも「キャッチコピー」が優先されてしまう
マーケティングの現場では、「低流量でも十分」「少ない量で最大のパワー」「家庭で安全に手軽に」といったコピーのほうが、どうしてもユーザーに響きやすくなります。

その中で、「1日に除去できる活性酸素量には上限があるから……」という“それらしい”フレーズが、あたかも科学的根拠があるかのように使われてしまうケースがあります。

しかし実際には、学術論文や教科書にそのような概念は存在しない、数値や測定法も提示されていないということがほとんどで、「言った者勝ち」のキャッチコピーに過ぎません。

(3) 爆発リスクへの漠然とした不安を利用した「恐怖訴求」
水素というと、多くの人が「可燃性」「爆発」「水素爆発」といったイメージを持ちやすく、ここに恐怖訴求の余地が生まれます。

「高流量だと爆発しやすい」「家庭で使うには危険」といったメッセージは、技術的な裏付けがなくても心理的には受け入れられやすいため、広告文として使われてしまうことがあります。しかし実際には、医療グレード機器は多重の安全設計を備えている、世界で医療機器として使われているのは、むしろ高流量機のみという事実があり、「高流量だから危険」ではなく、「安全設計がない機器が危険」というのが正しい理解です。

(4) 水素医学・工学に関する専門知識不足
水素吸入は分野横断的な知識(生理学・分子生物学・材料工学・安全工学など)が必要であり、専門家でないとすべてを正しく理解するのは難しい領域でもあります。

そのため、他社資料やネット情報を十分に検証せず、そのまま信じて使用してしまうこともあり、また、社内に検証できる人材がおらず、誤った前提で説明資料が作られるといったケースも考えられます。

悪意というより、勉強不足のまま情報発信してしまった結果生じる誤情報も少なくないと思います。


高流量=危険は誤り。危険性は「流量」ではなく「設計品質」で決まる



繰り返しになりますが、「高流量は爆発の危険性が高いから家庭用には不向き」という説明は事実ではありません。

まず、医療機器は厳しい安全基準と審査をクリアしている、高流量そのものではなく、安全装置や構造の有無がリスクを左右する、実際に臨床現場で使われているのは高流量機のみという点からも、「危険なのは高流量」ではなく、「安全設計が不十分な機器」だと理解する必要があります。

医療グレード機器では、密閉構造、逆火防止システム、圧力・温度センサー、過電流防止回路、自動シャットダウン機能、ガス冷却システム、医療電源規格など、多層の安全設計が義務化されています。


正しいまとめ



・活性酸素の除去に「1日の上限」があるという概念は存在しない
・水素吸入の本質は「濃度 × 流量 × 時間」=体内に入った量
・低流量機器では、呼吸生理学的に十分な血中濃度に達しにくい
・高流量が危険ではなく、安全設計と品質管理の有無がリスクを決める

「上限があるから低流量で十分」「高流量は爆発の危険性がある」という説明は、技術・コスト上の制約、マーケティング都合、専門知識の不足などが背景となって生まれた「ビジネス側の論理」であり、科学的な事実ではありません。

Suifeelは「高流量=正義」と主張したいのではなく、「科学的根拠に基づいて、ユーザーが正しい判断をできるようにすること」を目指しています。

情報が溢れる時代だからこそ、キャッチコピーだけでなく、データと原理に裏付けられた説明かどうかを冷静に見極めていただければ幸いです。